99の忘備録

クラピカ推しの人間が書いてるからそこんとこ注意してくれ

映画「怪物」感想

映画のネタバレがあります。注意してください。

 

 人って、こちらから見たら怪物だけどあちらから見れば人間で、その逆もまた然り。「怪物だーれだ」が最初は恐ろしい台詞だと思っていたが、二人の楽しい遊びだったなんて。

 息子を心配する母の気持ちがわかりすぎてやるせない。あんなに校長にのらりくらりとかわされて、担任に超テキトーな謝罪をされて、はいそうですかって受け入れられるわけない、血を流す怪我して、靴片方なくして、水筒に泥入ってて、脳みそブタって言われて怒らない親いない。母親責めたくないなぁ。全部担任のせいじゃなくて、湊が星川守るためにやったことなんだけど。言ってくれよ湊…あの母なら男が男を好きになっても受け入れてくれたんじゃないかなとも思う一方で、ラガーマンの夫が理想の男で家族作って幸せになってねを日常の至る所で聞かされたら自分を否定されてる気にもなる。愛人と旅行に行って死んだ夫のことを今でも大好きって言っちゃう母をちょっとオカシイって一歩引いて見る子供の気持ちもわかるし。でもそれでも家族のことは嫌いじゃない気持ちもわかるし。まぁでもそういう小さな溝がきっかけで本心でのコミュニケーションが取れなくなっちゃう。依里の父から“病気”と言われて虐待されるのを見てるから男が好きな自分は普通ではない=脳みそブタだと思うともう誰にも言えなくなるよな。

 先生は何もしてないけれどタイミングの悪い男…。いじめの現場を途中から見てるから勘違いが重なるし、男なんだから〜と悪気なくかける言葉に傷つく子供達。厄介だなぁ、悪気のない言葉。子供も心を開けなくてコミュニケーション不足になるし、担任に申し訳ない気持ちもありつつ嘘をついて担任に罪を被ってもらって星川守ろう…となる…かもしれない。というか肘が当たって鼻血が出たのは本当なんだから(湊が暴れたからだけど)不本意とは言えそこは普通に謝るべきではないかな。そこひとつでも真実のパズルがはまったらもしかしたら未来は違っていたかもしれないよね。どこにでもいる普通の先生のはずなのに、確かに良くなかったところもあるけれど問題のある生徒の家庭訪問はちゃんとするし最後湊と依里を探しに走れる優しい人なのに、四面楚歌でつらいしコミュニケーション不足のすれ違いがメディアでの報道とバッシング、教師退職なんて、代償でかすぎてしんどい。校長にはもっと親身になって守ってほしかった。

 けれど孫を轢いて死なせ代わりに夫に罪を被ってもらったのが本当なら、校長だって校長の職を夫の為にも自分の為にも続けなければならないし、学校を守る為にはこうしなければならなかった(人として許されることではないが)。依里の父だって虐待父でこれこそ怪物だろうって人だけど、シングルファザーで不動産屋でプライド高くてこの人をまた違う方向から見たら違う面が見えるのだろうと思った(だからって虐待が許されるわけがないのだけれど)。人の数だけ思惑がある。思いは言葉に行動に現れて本来なら簡単に解けるはずの紐が複雑に絡まっていく。

 麦野湊とクラスメイトからいじめられてる星川依里がだんだん仲良くなっていく過程が本当によかった。マンホールに耳を当てる、靴を片方貸してあげる、寄り添い。猫が生まれ変わる為に火葬しようとする依里と、火事になることを恐れて水筒に水を汲み火を消す湊。「怪物だーれだ」ナマケモノの長所が敵に襲われると体の力を抜いて諦め痛みを感じないようにすること。怒って詰め寄って謝って抱きしめられる流れが良かった。反応して僕も同じだよって言うところ良かった。父親に病気が治ったって言われて、好きな女の子ができたって言わせられた直後に玄関から飛び出して嘘!って訂正するところ、湊を傷つけたくないって思いにうたれた。ナマケモノみたいに痛みを感じないように諦めて風呂場でぐったりとしている依里を救い出せてよかった。
 よかった…んだけど、最初は火を消したように依里に命を大事にしてほしかった湊だけど、だんだんと死こそ救いで生まれ変わって幸せになろうという考えに取り込まれていくの…本当に良かったんだろうか。依里の父親の「あいつは怪物だ」って言葉が響いてくる。星川依里は麦野湊を魅了したんじゃないかって。虐めている子(依里)にキスをしたがるいじめっ子に違和感を感じた。こんなことを考えて怪物探しをする私がよくないよと思いながら星川依里だって人間だけど怪物だったと思うのを止められない。依里ははじめの放火はしていないと思うな。だって火をつけることは死んで次に生まれ変わることだから。
 ラスト、太陽が降り注ぐ緑の中を駆け回る麦野湊と星川依里は死んで自由になって二人だけの世界に逝ってしまった。新緑が眩しく太陽の光に溢れていて、とても綺麗で幸せだった。泣いた。死んでなんかほしくなかった。こんなにも未来がある少年が死ぬことを幸せだね、美しいラストだったねと拍手したくない。これからこの二人が幸せに生きてく世界になりますようにという願いを受け取った。

 トロンボーンとホルンの音が怪物の泣き声みたいだった。